青柳光則

ファッション・ディレクター
青柳光則
「ONE OF A KIND」

「銀座の老舗和菓子店の跡取りは「メンズ・ビギ」のトレンチコートを着て現れた。刮目すると肩はセットインスリーブで、着丈は膝下、アームもスリムで、ウェストはキュッとシェイプが効いているではないか。これぞファッションとしてのトレンチコートだ。対する筆者のトレンチを観察してみると、ラグランスリーブでレングスは膝丈・・そう!!これぞ巷のオヤジたちが着ているサラリーマン仕様だったのだ」(青柳光則著『男のお洒落道 虎の巻』万来舎刊 P189より)

コートは実家にあるのも合わせると、40着ぐらいかな。いままで買った数じゃないですよ。いまでも着ている数です。僕にとってコートは、あくまでアウター。雨具だとか防寒着だとかって思ってないから、スーツやジャケットと同じ感覚でシーズンに何着も買っちゃうんですね。だから、まだ着ていないコートがあるのに、気に入ったのを見つけるとつい買ってきちゃう。

初めてのコートは中学一年生のときのランチコート。正確には廉価版でコットンの“なんちゃって”だけど。19歳のときに初めて買ったステンカラーはコレ(写真上)、メンズ・ビギのね。何年前のだって話だけど、今でも現役なんですよ。ベージュのギャバジンとブラックウォッチのリバーシブル。ホワイトジーンズにボーダーのTシャツで着たりなんかしてる。お直しなんかしてません。生地も付属も当時のままです。傷みがないじゃないかって? そりゃそうですよ、ほかに着るコートがいっぱいあるから、年数のわりにそれほど回数着てないんですから。

タイロッケンはジョルジオ・アルマーニ。同じアルマーニのマオカラースーツや、4ボタンダブルのスーツに着てましたね。しばらくスタメン落ちしてたのはサイズ感が時代と合わなくなっちゃったから。ですので先日、リフォーム屋さんでお直ししてもらいました。「絶対シルエットは崩さないでね」とお願いしたら、すごく良くなったので、今年は着ようと思っていますよ。それにしてもアルマーニは買いましたね。家一軒ぶんぐらい、つぎ込んだんじゃないかな。

高校生の頃、シングルのチェスターは全然かっこいいと思えなかったんだけど、ダブルならカッコいいかなと思ってましたよ。それでも若いうちはなんだか似合わないように思えて、ようやく30代の半ばに買ったのが、ロロ・ピアーナのダブルのチェスター。タキシードの上にも着られるカシミヤ100%で、シルエットはいま着ても全然古くないでしょ。カシミヤが絶品でね、いまのカシミヤとはレベルが違う。すんごくやわらかいけど、その代わり重量もある。TUBEの真っ赤なコートは90年代の初めぐらいに買ったもの。TROW MILLのツイードで、上衿にグレンチェックを使ってる。これもサイズを直したら、すごく良くなった。また着たいコートが増えちゃった。

本にも書いたんだけど、高校のときの友達に銀座の老舗和菓子店の跡継ぎがいましてね。その頃はディスコが全盛で、ドレスコードがあるもんだから、お洒落して皆で行くわけですよ。そのとき彼が着てきたのがメンズ・ビギのトレンチ。肩パットが入ってて、シルエットもきれいで、着丈は膝下。ミスターVANのスーツの上から着てきた彼の服を見て、僕はがっくりと肩を落としたものですよ。それからです、本気でファッションをはじめたのは。

数年前にアクアスキュータムでオーダーした、この「プリンスゲート」。伊勢丹のメンズフェスでもオーダーできるんだそうです。着方としてはボタンは上までしっかり留めて、衿を立てる。ベルトは腰元でキュッと結んで。男クサいイメージで語られることの多いトレンチコートだけれども、70年代のサンローランやチェルッティ、菊池武夫先生のメンズ・ビギや松田光弘さんのニコルなんかにも通じる美意識があるよね。イメージは『傷だらけの天使』のショーケンかな。

このコート、じつは先の老舗和菓子店の跡取りだった彼へのリベンジでもあるんです。僕なりの落とし前の付け方というかね。あの頃は後塵を拝したけれども、いまファッションのプロとして、きっちり落とし前を付けておきたかった。それに最近、あの頃メンズ・ビギのトレンチコートに出会ってなかったら、今頃、僕は何をしているかなって思うからなんですがね。