京都歴代のれん市

「瓢亭らしくないというようなことを言われたらあきません。」
〈瓢亭〉十四代目当主 髙橋英一氏

瓢亭

約450年前に南禅寺境内の現住所に茶店として創業。京料理、茶懐石の伝統を現在に伝える京都随一の料亭。茶店時代からの名物の瓢亭玉子をはじめ、懐石料理や朝がゆ、お弁当などすべての美味が、ゆるぎない味として確立されている。

髙橋英一(たかはし・えいいち)

〈瓢亭〉十四代目当主。1939年、京都市生まれ。同志社大学卒業後、東京、大阪にて修業、1964年に瓢亭勤務。1967年、十四代目を継承する。現在は全国津々浦々をまわり、後進の育成にも努める。平成25年京都府指定無形文化財保持者認定と、平成28年京都市文化功労者表彰は、京都の料理業界で初めてで、ただ一人。著書に『京都・瓢亭 四季の日本料理』など多数。

1. 瓢亭の始まり

もともと茶店やったんです。茶店を始めたのが、だいたい450年前。料理屋になったのが、天保8年8月15日から。1837年、いやみな年ですね(笑)。
表の通りが南禅寺の参道で、瓢亭の東隣が丹後屋という湯豆腐屋やったんです。幕末の『花洛名勝図会』という書物には、その2軒が繁盛していると書かれてます。当時の南禅寺さんの日記帳『南禅雑記』では、瓢亭と丹後屋は境内にあって客引きをするとは何事かとお叱りを受けているんです。よってらっしゃい、よってらっしぃって、お互いにうるさく呼び込みあってたんでしょう。

2. 名物・瓢亭玉子

瓢亭はお茶とお菓子で一服というお店だったんですが、他に何かないのかと所望され、庭先で飼っていた鶏の卵を茹でて出したところ、それがすごく珍しいと評判になりまして。「瓢亭の煮抜き卵は形丸くして骨なく云々……腎精を健やかにする」と、当時の文献では身体によいと書かれていました。
その頃のことですから、火加減なんかええかげんなもんで、やわらかかったり、固かったり、いまみたいに均一にならなかったと思いますが。

3. 伝統の重責

「プレッシャーあるやろ」「肩の荷が重いやろ」とかよく言われるんですけどね、そのへんのところ、申し訳ないくらいなんにもないんです(笑)。子どものころから料理の仕事が大好きで、自分では料理人になるって決めてましたから。遊び場が調理場であり、店の庭でありという環境で、どっぷり瓢亭につかっていたんですね。学校よりも仕事が好きで、包丁さえ持ってたらごきげんでした。
見習い修業から瓢亭に帰って2年目、私が28歳のときに父親が亡くなったんです。それで後を継ぐときもいろいろ心配されましたが、親が亡くなったら後を継ぐのは当たり前のことと思っていましたので、何でもなかったですね。意外と平々凡々なんですよ(笑)。

4. 瓢亭の「だし」

若いころ東京に見習いに行ったとき、そのお店のだしの引き方が瓢亭と違うんです。その後大阪に行ったら、また違うやり方。いろんなやり方があるんやなとその時初めて知って、はたして瓢亭のだしはいまのままでいいのかと考え、さまざまな勉強や研究を重ねて、やがてそっくりやり方を変えてしまいました。京都の軟水を用い、利尻昆布を65〜70℃で約1時間かけて抽出、枕崎の鰹節ではなく鮪節を20分じっくり抽出しただしです。
料理人が10人いたら10人とも違うだしの引き方をします。どれが基本で、どうでなくてはいけないということはありません。料理屋に行ってお吸物が出てきたときは、椀種を召しあがる前にまずおだしを味わって欲しいですね。「ああ、このだしおいしい」となれば、たぶん全部の料理がおいしいと感じるはず。だしというのは料理屋の味のバロメーターとも言えるほど大切なものだと思います。
瓢亭のだしは昆布も鮪節も濃いんで、口の悪い友だちからは「髙橋さんぼけてきて、だしも濃うせんと旨みがわからへんのや」なんていわれていますが(笑)。

5. 瓢亭らしさとは

建物も、しつらえも、できるだけ昔の雰囲気を残すということでしょうか。料理には新しいものを取り入れたりもしますが、瓢亭らしくないというようなことを言われますとあきません。伝統と革新、そのバランスが大切ですね。
私には若いときから自分の思いの中に瓢亭という料理屋の枠、垣根があります。普段はその中で伝統的な仕事をしている。ただそればっかりだと衰退になりますので、片足踏み出して新しいことを取り入れる。ところが両足飛び出していってしまうといけないという思いです。
若いとついつい両足出したくなってしまいます。若いころは見てきたことや聞いてきたこと、珍しくておもしろいと思うと、取り入れたくなるわけですね。でも、昔の瓢亭のお客さまのお旦那衆は「今日のアレは、あんたのとこらしないで」とか、びしっと言うてくれはるんです。お旦那衆はほんとうに恐かったですけど、ありがたいことでした。

6. 世界の料理

私自身が食べに行く好きな料理のジャンルは何かと聞かれたら、日本料理以外ではフレンチと中華なんです。どしっとした、古典的でオーソドックスなしみじみとおいしい伝統的な味わいが好みですね。
以前はよく、自分のメニューに取り入れたりもしました。食べておいしいなと感じたら、とことん作り方を聞くんです。それをアレンジして、京料理と言われるまでにもっていくんです。フレンチや中華のようだと言われるようではダメですね。

7. 多彩な趣味

趣味がたくさんあって困るんですよ(笑)。包丁に限らずの日曜大工、裁縫、模型づくりなど、子どものころから手先のことが好きやったんです。
それに園芸ですね。小学校時代は洋花を、中学生ぐらいになると落ち着いてくるのか和花が好きになりまして。私が作ったものを母親がお店のお座敷に生けるわけです。山野草や茶花好きが高じて、茶花教室を担当するまでになりました。いま瓢亭の花は、自分が作った花を自分で生けています。
あとは魚釣り。それに陶芸もよくやりました。小洋鳥、和鳥をはじめ金魚や熱帯魚、犬もたくさん飼って育てましたね。趣味が多すぎて時間が足りません。

8. 座右の銘

そんな大層なもんはないんですけど、父親からよく言われていたのが「食材を大切に使え」ということ。食材の持っている味をよりおいしく仕上げるのが料理やから、できあがった料理が何の食材からできているのか分からないほどいじりたおした料理はするなと。
あとはいつも「謙虚」で「自然体」と「平常心」でいるということですね。

9. 未来をつくる仕事

一昨年息子に代を移しまして、いまは食育で小学校をまわったり、全国の料理学校をまわったり、各地で料理教室を開いたりと、若い人の育成に力を入れています。いろんなところから講演もお声掛けいただき過ぎるので、もうちょっと仕事選んだらっていわれるんですが(笑)。
もう78歳なんでいつまでできるか分かりませんけど、元気な内はやっていたいなと。目標は、生涯現役です。

名物の瓢亭玉子をはじめ、約20品目すべての献立にていねいな「しごと」がほどこされ、食材そのものの持ち味が引き出されています。約450年の長きにわたる伝統に現代の嗜好や感性が融合した、京料理の真髄をご堪能ください。

〈瓢亭〉春陽の松花堂弁当 各日50食限り 5,400円 (1折) [伊勢丹新宿店限定]
※お弁当の内容は一部変更となる場合がございます。